医薬学術文献の内容の確認

今回は検索された医薬学術文献の内容の確認について解説したいと思います。
検索でいくつか文献がヒットした後は、知りたい情報があるかどうか確認しなければなりません。和文の場合は確認にそれほど時間はかからないと思いますので、英文の場合を解説します。

科学論文は大きく分けて以下のような構成になっています。
Title / Abstract / Introduction / Results / Discussion / Conclusion / Reference

前回の例を引き続き題材にします

依頼は“急速な血糖改善は早期において網膜症の増悪を増やすとのことですが、単純網膜症の患者にも血糖改善速度は注意が必要でしょうか? エビデンスとしてまとまっているもののご提示をお願い致します。”
でした。

検索の過程で以下の文献がヒットしました。
Early Worsening of Diabetic Retinopathy in the Diabetes Control and Complications Trial
Arch Ophthalmol 116 (7), 874-86. Jul 1998.[1]

まずTitleから網膜症の早期増悪に関するエビデンスであることが分かります。
次にAbstractを確認します。ここでこの文献の要旨をつかみます。この文献ではどのような方法で何を評価し、結果はどうであったかを確認します。
この試験は1型糖尿病患者約1,400名を、強化療法群と従来療法群に無作為に分け、網膜症の重症度別にその早期増悪の程度を評価した大規模臨床試験であることが分かります。この段階で上記の依頼にかなり応えられる文献であることが分かります。次に”単純網膜症の患者にも血糖改善速度は注意が必要でしょうか?”の部分については本文を見ていきます。

ただし、ここではスピードを重視します。1依頼あたり1,2時間で処理するためには文献の内容確認に余り時間はかけていられません。文献検索をしてTitleとAbstractの確認だけでもすでに時間を使っています。本文を熟読している時間はないので速読していきます。速読はトレーニングすることで身につきます。トレーニング方法は色々あるのでここでは詳述しませんが、私は1分間に2,000-3,000文字読めます。

これは日本人の平均の4,5倍といわれています。慣れてくると欲しい情報が向こうから目に入ってきます。これはちょうど大勢の中で美人あるいはイケメンが目につくというような経験をされた方も多いと思いますが、そのような感覚に似ています。

脱線しましたが、
まずは、網膜症の重症度別にその早期増悪の程度を評価した結果を確認しますが、この場合はResultsの中でテキストよりも図表を見ていきます。そうするとTable3にその結果が掲載されていることが確認できました。単純網膜症に相当する比較的軽度な網膜症でも早期増悪のオッズ比は2-4であることが示されています。

さて”単純網膜症の患者にも血糖改善速度は注意が必要でしょうか?”に関して試験結果は示せましたが、臨床的な意義も含めて筆者はこの結果についてどのように考えているのでしょうか。

結果に対する筆者の考えはDiscussionやConclusionに述べられていることが多いのでその部分を中心に見ていきます。Conclusionに比較的軽度な網膜症でも強化療法を行う場合には6-12か月間は3か月ごとに網膜症の評価を行うことが妥当であると述べています。

このように検索された文献の内容を確認し、依頼者の要求に応じた情報を正確にかつ迅速に見つけていきます。

[1] Clinical Trial Arch Ophthalmol, 116 (7), 874-86 Jul 1998

Early Worsening of Diabetic Retinopathy in the Diabetes Control and Complications Trial
https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/fullarticle/262924